いさみ保育園訪問 通信掲載 (2015年8月号)

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 百町森のある静岡市の住宅地に今回取材させていただいた「いさみ保育園」があります。園舎の外壁(相沢の積み木のパターン表が背景)と園庭のHAGS の大型遊具(百町森HPで施工時の紹介をしています)がひときわ目を引きます。百町森と長いおつきあいをさせていただいている園です。今回は特に乳児のお部屋を拝見し、担当制保育についてお伺いしました。

昼間のおかあさん

 普段、保育と関わりのない方は、「乳児の担当制保育」と聞いてもピンとこないかもしれません。保育園に通う子どもたちは、お父さんやお母さんから離れ、初めて他人の中で過ごすことになります。子どもにとっては不安が大きい事は間違いありません。そこで、いつも決まった保育士が継続的に世話をすることで、子どもとの信頼関係を築き、少しずつ安心して過ごせるようにするのが乳児の担当制保育です。また、同じ保育士が関わる事で子どもの発達の様子やその時の子どもの心の状態を把握しやすくなります。


 一般的に保育園というと、食事や睡眠の時間が決まっていて、みんなで同時に行動をするというイメージがあるかもしれません。いさみ保育園では、乳児は担当制をとっており、保育士が「昼間のお母さん」となって食事や排泄など、その子にあった生活リズムで過ごせるようにしています。なので、食事時間や午睡の時間もまちまちです。また、成長に基づく欲求を受け止め、子どもが主体的に遊び、意欲的に生活する環境の中で、一人一人にあった援助をするように心がけているということでした。

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0 才児クラス:遊んでいる時の子どもと保育士の目線や、何気ない表情からも信頼関係が見て取れます。)


いつもと同じが大事


 0歳児は子ども三人に対して保育士一人の職員配置です。しかし、食事や排泄等の生活面は、一対一で丁寧に援助しています。まだ言葉がでない子どもたちにも、保育士は「次はこれを食べる?」と聞いたり、おむつ替えでは、動作の前に「じゃあ、ズボン履くよ。」と声をかけてから援助していました。生活のほとんどを援助してもらう子でも、心づもりができ、繰り返し声をかけられることで、言葉と動作が繋がってきます。そんな細かな配慮からも、子どもの気持ちや意思を大切にしている事が伝わってきました。

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1 才児の食事の様子:この時期は、自分で食べるが子ども任せにせず、最後まで大人が見守り、きれいに食事ができるよう援助しています。)

 1歳の部屋では食事が始まっていました。同じ部屋でも、まだ食事前で遊んでいる子
や、食事が終わるとすぐに睡眠に入る子がいます。声かけはその子のそばに寄り、そ
の子に聞こえる大きさでするので、部屋の中はとても静かです。そんなに落ち着いているのに、この部屋の半数が新入園児だそうで大変驚きました。4月からの数ヶ月で保育士との信頼関係を築き、1歳児の子でも自分の生活の流れを理解しているのです。ようやく歩行が安定したくらいの女の子が、声かけで持っていたおもちゃを棚に戻し、自ら歩いて自分の食事の場所へ座っていました。担当制で一人一人に丁寧に関わると、大人も声を荒げて急かす事もないですし、子どもも自分の気持ちを抑えられる事もありません。落ち着いて過ごす事が出来るのがよくわかった一場面でした。
 そして、食事や眠る場所が決まっている事も情緒を安定させる一つの要因です。「家庭でも、食事の場所や眠る場所は決まっていて、大人もその方が落ち着くでしょ。」と小田巻先生。生活の中に決まりがあることがわかれば、自分で考えて生活できるようになります。また、丁寧な保育とは、子どもの意欲と甘えを上手に受け止め、大人が先回りして手を出し過ぎず、待ってあげる事も大切だと感じました。

乳児担当制と幼児異年齢保育をやってきて


 いさみ保育園では、乳児の担当制保育をされてきて20年以上経ちます。その歴史を知っている主任の小田巻先生はこうおっしゃっていました。「私は一斉指導型の保育も経験しているので、なおさら今の保育の良さがわかるのです。一斉指導型の保育では子どもたちがよく、『これしていい?』とお伺いをたててきました。でも、保育を変えたら、そういうことがなくなり、自主性が出てきました。」異年齢保育を始められたのは、その10年後。「始めるのに10年は必要だったんですよね。」と秋山園長。異年齢保育をしている園を見学され、年長児が大人の声かけなしに先を見通して自ら食事の準備を始める姿をみて衝撃を受けたそうです。でも、いきなり全てを真似したのではなく、子どもの様子を見ながら、徐々に変えていかれたそうです。全職員で一人一人の子どもの気持ちに寄り添い、より良い保育を目指すいさみ保育園の保育の歴史に改めて感銘を受けました。